重心

 絶好調ですと言う言葉の後に、行政書士の試験に合格して独立しこれから事業を立ち上げると言うことも伝えられた。このどの部分に僕が関われたのかわからないが、何処かで少しは役に立ったのかもしれない。  嘗て優秀なお嬢さんを世話したことがある。彼女は過敏性腸症候群を高校時代に克服してくれて、有名大学に進学し有名企業に就職した。記憶では確か行政書士の資格試験に挑んで不合格になった。お母さんが教えてくれたことに、一番合格しにくい試験ということだった。だから本人もお母さんも意外に気にしていないみたいで、落ちてもさっぱりしていた。  その試験に彼が合格したのだから、恐らく大したことなのだ。最初お腹の相談を受けたときに性格は?と尋ねた答えがとても意外で、目立ちたがり屋でイケイケドンドンみたいなことを言っていた。どう見ても過敏性腸症候群などと無縁の性格なのだが、何かの落とし穴に偶然落ちてしまったのだろう。恐らく知性も理性も体力もある彼がこんな受け入れがたい症状で苦しむのだから、誰がいつ同様の状態になっても不思議ではない。ストレス過剰の不自然な生活を強要される現代人が、胃か腸か心臓で限界を表現しても不思議ではない。  彼に続く完治予備軍が数人いる。僕にとって過敏性腸症候群などごくごく普通の相談でしかないのだが、頼ってきてくれる人の悲壮感はすごい。治らない、治りにくいと言う風評被害に遭っている人がほとんどだ。その先入観さえなければもっと皆さん努力してくれるのだろうが、今でも時々一発勝負みたいな人がいる。奇跡は起こせないがしばらく付き合ってもらえればかなりの確率で喜んでもらえる。  僕の漢方薬を飲んで元気になってくれた人は一杯いるが、行政書士に合格したというのは初めてかもしれない。東大の医学部に合格してくれた子や女子アナになった子から、御法度の裏街道を歩く人までこの幅の広さがヤマト薬局の特徴かもしれない。でもどちらかというと後の方に重心が傾いているのが玉に瑕か。