安堵

 介護歴5年で未だ継続中。介護を分担してくれるはずの家族と確執中。これだけでウツになる条件としては十分だろう。外出や人混みに恐怖しパニック症状も起こす。毎晩悪夢にうなされて遅い朝を待つ。そんな彼女がけだし名言を吐いた。「母親は毎日が危篤です」と。 一所懸命尽くしても誰からも評価されない。寧ろ非難の声も聞こえる。人を責めればいいのにこんな人に限って自分を責めてしまい、余計自分を追いつめてしまう。それでも僕を訪ねてきてくれたのは、病院の安定剤をダラダラと続けることが受け入れられなかったのだろう。身体がだるくなるだけで、心は何ら軽くならなかったから漢方薬を紹介されて来たらしい。 2週間分を数回取りに来てずいぶんと調子が良くなった。最初、僕より年上に見えていたが、そのうち同い年くらい、そして今はカルテに書かれているようにずいぶんと僕より年下に見え始めた。今日漢方薬を取りに来たときに、笑顔を浮かべて「先生2週間で人を4人殺しました」と言った。一瞬何のことかと思ったが2週間前に僕が彼女に助言したことを思い出して「沢山殺したね」と褒めてあげた。この会話を他の人が聞いていたらなんて会話をしているのだろうと思うだろうが、そう、事実、なんて会話をしているのだ。 僕はこの数年あるきっかけで崇高な話しをしばしば聞く機会を持った。ところがその種の話で救われるだろう人は僕の薬局には来ないってことがわかった。頼ってきてくれる人が崇高でないのか、僕が崇高でないのかわからないが、「いやな奴は絞め殺してしまえ」の方が余程それらの人を救うことが出来ている。一所懸命誰かのために、正しい道という強迫観念にさいなまれながら尽くして、自分の体も心も傷ついて朽ちていく。そんなことが許されてはいけない。僕の評価が落ちようが、ヤマト薬局の評価が落ちようが、僕は漁師言葉であからさまに心の内を露出させて、解放されるのを手伝いたい。漢方薬で解毒し、品のない言葉で素直な感情を語れば、精神的な疾患は治りやすい。「汝の敵を愛せ」ではなく「いやな奴は絞め殺してしまえ」の方が人を救える皮肉に今安堵している。