拡大解釈

 今でもあれはいったい何だったのだろうと思う。  昨夜いつものようにテニスコートを歩いていた時に、西の空が一瞬光った。まるで雷のようだったが、雷ほど白くはなく、濃い黄色だった。ただ光った範囲は雷よりも狭かったような気がする。僕が最初に思ったのは、車が山を登っていてサーチライトで雲を照らしたのかなと言う事だった。西の空を広く光らせたのではなく、ある程度限局されていたように見えたから。ただ、あの光を造る山の坂道はない。その次に思ったのは雷だ。見上げて空の全体を確かめてみたが、星が途切れることなく一面に広がっているから雨雲は考えられない。念のため、イヤホーンをはずして耳を澄ませてもみたが、ついぞ雷鳴は聞こえなかった。  このタイミングでそんなものを目撃するとどうしても地震とくっつけてしまう。事実阪神大震災の時も、明け方に光を見た人が何人もいた。ハッキリとは覚えていないが、一瞬夜が明けたようになったと言うような証言を聞いたことがある。その話が印象に残っていたので、散歩を切り上げて帰り、早速パソコンに向かい、牛窓の天気と地震情報を調べてみた。牛窓はやはり晴れマークだし、地震情報もなかった。あれは一体何だったのだろうと、眠るまで何度も頭の中に浮かんだ。  東に住む人にとっては驚くくらい西の生活は「普通」らしいが、さすがに海辺の人間にとっては想像できる恐怖なのだ。予想できる恐怖と言ってもいいかもしれない。どこかに将来の自分と重ねてしまう思考回路が出来上がってしまっている。今までなら気にもとめなかったちょっとした異変を拡大解釈してしまいそうだが、恐れを封印してしまうほどの勇気は僕にはない。ただ撲に出来ることは失いたくないものを多く持たないことだけだ。実はそんなもの少ししか持ってはいないのだけれど。