引力

 今年から営業開始時間を9時にしたおかげで、朝の時間に余裕がある。その為にウォーキングの時間を早朝から8時半に移した。この時期だと朝の6時はまだ暗くて、足元がおぼつかないから、危険回避でもある。勿論転倒だけでなく寒さのあまりのプッツンも考慮に入れている。  この時間に歩くようにしたら、この時間はこの時間の空があることに気がついた。早朝だと、朝焼けがとても綺麗で、東の空を向いて歩くときが楽しみだ。テニスコートを周回するから、東を向いて歩くのは4分の1だ。ところが朝の8時半頃同じ場所を歩くと、澄み切った空の青さが印象的だ。その時間帯だと既に太陽が高いので結構まぶしくて、太陽を避けて見上げなければならない。そして発見したのだが、その時間帯に特別飛行機がよく飛ぶ。昨日など、雲ひとつ無い空に、飛行機雲が13本あった。今正にお尻から吐き出して飛んでいるのが3つあったし、ついさっき通ったに違いないと言うのも6本くらいあった。そして既に風に流され、ゆがんで拡散しつつあるのも4本あった。  多くの飛行機雲は東から西に向かっていて、それぞれがかなり近い航跡を残している。詳しいことは分からないが、空にも道があるのだろうか、主要道と側道と、バイパスみたいに見える。そのうち数本は北東から南東に向けて飛んでいる。いつも空を見上げて不思議に思うのだが、一体牛窓の北東にどこの飛行場があって南東にどこの飛行場があるのだろう。いやどこの県からどこの県に向かっているのだろう。いやいやもっと視野を広げて、どこの国に行っているのだろう。南東はそれでも分かる、台湾かフィリピンか候補は一杯ある。ただ、北東からやってくるのはわからない。牛窓の北東といえば丹波か北陸くらいしか思い当たらないのだが。それとも飛行機も車と同じように右折も左折もあるのだろうか。  いくら考えてもこれはと言う答えが見つからないので、いつかインターネットで航跡なるものを調べたことがある。するとあまりにも多くの飛行機が飛んでいるみたいで、日本の空が塗りつぶされているようだった。  ウォーキングの時間帯には通らないが、1つ僕が目をつけているコースがある。それは北西から南東に向かうもので、結構低く飛ぶ。まるで下から見上げると巨大な魚がお腹を見せて泳いでいるように見える。牛窓上空であれだけ低く飛ぶのだったら着陸は高松しかないと思うのだが、定かではない。途中下車できるものなら降りて来てもらって確かめたいくらいだ。ただし飛行機が途中下車したら全員あの世のについてしまうからそれは望むまい。  晴れた日に空を見上げ、銀色に光る機体を下から眺め、まるで上空から海の上を泳ぐ白イルカを眺めているような気持ちになる。僕がはるか上空を飛行機で飛んでいるような気持ちになる。地球の引力から解き放たれたらきっと僕はあそこまで落ちていく。、