酒飲み

 なるほど、そういう理由があるのか。道理で「治らん、治らん」と言いながら同じ処方箋を持ってくるはずだ。  もう1年半くらい同じ処方箋を持ってきている。隠れたところの皮膚病だから、どんな皮膚病でどうなっているのか分からない。僕は何も期待されていないので、処方された薬を惰性のように出している。患者さんも惰性のように飲んでいる。  ところがあまりにも長く同じ処方の薬を飲んでいるし、不満も多いので「内科の先生に出してもらうのではなく専門のお医者さんにかかったら」と皮膚科にかかることを促した。それも大きな病院の。すると「嫁さんも同じことを言うんじゃ」と笑いながら教えてくれた。それはそうだろう、衣服に夜中かきむしった挙句の血がつくというのだから奥さんも大変だろう。勿論心配だろう。ところが頑として行動に移さないのだから何かの理由はある。それを彼が教えてくれた。「専門の病院にかかって、酒を止めろと言われたらおえんじゃろう(だめだろう)」と。そうかそれが理由だったのだ。僕はほとんど酒を飲まないからその心理はよく分からないが、酒飲みは大変なんだと同情する。  そう言えばもう1人、同じような兵がいる。この男性は僕の漢方薬を飲むためにやって来た。目的がはっきりしていた。高血圧と胸が締め付けられるような痛みをとってほしいと言うものだ。そのレベルの自覚症状で医者の前に僕のところに来るか?と思ったが、この男性も同じ理由だ。酒で焼けた赤い鼻をしていたから理由はすぐに分かった。医者にかかれば酒が飲めなくなるのだ。幸い、この種のトラブルには漢方薬はうってつけだから、2つの漢方薬を飲んでもらって、赤鼻まで解決した。最近は意気揚々とやって来て、いい笑顔で帰っていく。まるで人生まで治してあげたようなものだ。恐らく毎日健康的に大酒を飲んでいるのだろう。  それにしても酒飲みは肩身が狭い。どちらがより体に悪いのか分からないが、甘党が悪く言われたのを見たことが無い。甘党をとがめられて病院にかかるのを躊躇うのを聞いた事がない。酒も砂糖と同じ左党なのに。