千鳥足

 掃除道具を取りに行くために裏の事務所の戸を開けると駐車場に5,6人の男性が座り込んでいた。僕は一瞬多くのツバメがいるような錯覚に陥った。と言うのも、その駐車場は建物の1階部分を柱だけにして外部としきりのない空間にしているのだ。その為に夏はツバメが太陽の光を避けるために一休みする格好の場所になっている。風が吹き抜けるから巣作りには適していないらしいが、3方が開放されているので一休みするには格好の場所なのかもしれない。そこにいる動物は僕にとってはツバメでしかないのだ。 大きなツバメたちは、ヘルメットをかぶっているのもいれば脱いでリラックスしているのもいる。2月から始まった下水道の工事関係者なのだが、今は県道から脇道に入ったところの工事をしていて、そのせいで僕の薬局の路地部分を工事しているのだ。そこでちょいと休み時間に涼しい場所を求めて失敬したのだろう。 ばつが悪かったのか、それぞれ何か挨拶みたいな事を言ってくれたのだが、それよりも僕が驚いたのは全員が一様にアイスキャンディーを、それも何故か青色が目立つのをなめていたのだ。その光景が奇妙と言うか滑稽というか、なんとも言えぬ不釣り合いさを感じた。炎天下で仕事をしている人達だから、一様に真っ黒に日焼けしていて、重機を乗り回すせいかお腹を中心に豊かな体つきだ。淡い水色の作業着が涼しげではあるが、なにぶん顔が暑苦しいので全く似合っていない。首に巻いたタオルも頭からかぶったタオルもやたら白さが目立ったが、ハミングの匂いだけはさせないでほしい。あまりにも似合わなさすぎるから。 「えらい可愛いものをなめているんですね」と言ったら自分たちも自覚していたのか照れていた。昼間からビールを水がわりに飲むか、せめて缶コーヒー、それもボスくらいを飲んでいるのならまだ格好いいが、アイスキャンディーを美味しそうになめているのでは格好がつかない。借りてきたネコ、もっと言えば去勢されたネコみたいだ。  最早土建屋は建設会社になり、土方は社員になった。余りにも品が良すぎてこちらが恐縮する。若くして牛窓に帰ってきた頃は、土建屋で働く土方がいっぱいいて、それなりに活気があったような気がする。それこそ体だけで生きていた人達がいっぱいいた。いつも酒の匂いがして、生活は綱渡りのような人達だったが、滅多に綱から落ちた人を見なかった。今は多くの人が綱に上がることもせず、仮に上がったとしても容易に転落する人が多い。いっそのこと、やけ酒をあおっての綱の上を歩いてみればいい、所詮地上でも千鳥足なのだから。