人質

ヤマト先生お久しぶりです! 今日はお腹の話とは、全く違うことなんですが、何かアドバイスが欲しくてメールさせてもらいました。早速ですが、最近自分が誰なのかわからなくなります。過敏性腸症候群になる前は、私はすごく自己中で相手の気持ちを思いやれない、わがままな人間でした。でも過敏性になってから、人に優しくすること、相手の立場に立って考えることなどを学び、完治する頃には良い子と呼ばれるようになりました。そんな自分が嫌いじゃなかったです。 でも良い子と呼ばれるたびに、良い子でいないといけない人を傷つけてはいけない、など考えすぎるようになって、自分自身に疲れきってこんな私は私じゃないと思うようになりました。自分自身が偽善者に感じました。だから私は、良い子ぶるのは止めて、以前のように何も深く考えず人に振る舞うようになりました。するとやっぱり、何気ない一言で人を傷つけてしまったりします。また自己中に逆戻りです。人間関係も前ほど円滑ではなくなりました。私は、これから人に対してどんなふうに接していったらいいですか? また、私は一体どんな性格ですか?急にこんな重い内容ですいません。ぜひアドバイスあればお願いします…長々読んでくださってありがとうございます(;´∩`)

○○さんへ   貴女が遠路やって来てくれたのは、もう一歩で完治する頃でしたっけ。完治の前か後か忘れましたが、僕は貴女を見て後足らないのは自信だけだと思いました。貴女は礼儀正しく、知性も感じられ、とても好感が持てていわゆる「よい子」そのものでした。それで例えば僕みたいな他者が、貴女に物足りなさを感じるかと言えば決してそんなことはありません。若い女性が今まさに人格を少しずつ積み上げている途中だと誰もが思うでしょう。未完成の中で惑うのは当然です。惑うからこそ完成に近づけるのでしょう。  僕にとって自信とは自分を否定しないことと同義語です。だからうぬぼれるような危険性を全く含まないのです。自分で自分を否定してしまう場合、自己の立脚点が間違っている場合が多いのです。もし貴女が外見の基準を吉瀬美智子に置いたら、落ち込むばかりでしょう。もし貴女が経済的な基準を、マスコミでもてはやされる愚劣な金持ちどもに置けばコンプレックスの固まりになるでしょう。もし貴女が知性の基準を学年でトップだった女生徒に置けば抜け出すことができないトラウマになるでしょう。もし貴女が精神の基準をアフリカに単身で渡り現地の人と共に暮らしている看護師さんに比べれば自己中を嘆くでしょう。  貴女も僕も、どこにでもいるごく普通の人間です。それもとても大切なごく普通の人間なのです。9割9分のごく普通の人達が、何もかもを構成しているのです。この人達がいなければ何も起こせないし持続もしません。 そんなごく普通が「よい子」を競う必要はありません。ほとんどの人が少しの長所と多くの欠点を持って何とか暮らしているのですから。又誰にでも受け入れられるような無理もしてはいけません。僕は少年の頃出会った福沢諭吉の言葉を大切にしてきました。「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」って言葉です。だから僕にとって人とは「人の上にある人」は含んでいないのです。その人達と元々接点もないのですが、その人達のことを過剰に評価することをしない癖が付いていますから、とても楽なのです。多くを得て、又持ち合わせている人など興味の対象外です。貴女がよい子ぶる必要はありませんが、よい子であろうとすることは必要です。ぶる事とそうであることとは全く違います。  先に述べた立脚点をハッキリさせたらどうでしょうか。貴女が大切にする人達を定めたらどうでしょう。もしそれが定まれば、自分の力量をそれに近づけることのみに集中すればいいのですから、他者の評価は全く気になりません。自分の中から虚栄を消し去ることもできるでしょうし、何気ない凶器のような言葉や行いも出ないでしょう。どんな人達を大切にすべきか分かれば、自分の行いに自信がつきます。信念に従うことだけが貴女にとっての規範なのですから。  僕はいわゆる世間で高く評価されている人にはほとんど感動を覚えません。職業的にどうしてもその評価と対等か、あるいはそれ以上のドロドロとした裏の生活があることを体験的に分かっているからです。寧ろ僕が勝てないなあと思うような人は、身の回りに一杯いるのです。裏通りで、車の音さえしない交差点で、赤信号でじっと立ち止まっている人。駅の階段を上ることが困難な老婆の荷物をそっと持ってあげる人。駐車場から出てくる車を優先してあげる人。痴呆の老人に笑顔で接する人。ハンディーを持っている人のお世話をする人。あげればきりがありません。貴女にとって「人」が何をさすのか分かりませんが、僕にとって「人」はハッキリしているのです。だからぶれることが少ないのだと思います。ごく普通の人の、少数でもいいからお役に立ちたい、ずっとそう思っていました。人の上に作られた人?の機嫌の一つもとらなかったから、価値観を人質に取られることもありませんでした。何かを得るために決して人質に出すようなことをしなければ、自分に不安を感じることはないのです。  人生の坂道をまだまだ上っている貴女はしんどいかもしれません。貴女が大切にしたい人は誰ですか?それを問い続けてみてください。 ヤマト薬局