もったいない

 もったいない、もったいない。その若さと、美貌と、繊細な心は、自分で捨てるのはもったいない。逝くのなら、その全てを失ってからで良い。その頃になると自分で逝かなくても向こうから勝手に迎えにやってくる。いくら逃げても追いつかれる。それまでひつこく生きるべきだ。取り返しがつかないことを最初にしてはいけない。ほとんどのことは取り返しがつくのだ。何回も挑戦する権利を残しておくべきだ。何千万分の一の確率にでさえ人間は強欲に賭けるのだから、もっと高率でやってくる幸せはある。幸せを量る価値観を世間に合わせないことだ。くだらない常識に合わせることはない。常識もそこまで堕落すると単なる偏見だ。そんなものこそ、心の中から葬り去ればいい。  自分を卑下してはいけない。遠くからかなわぬ愛を貴女に寄せている人もいるだろう。貴女を必要としている人もいるだろう。見失ってはいけない、貴女を大切に思っている人達のことを。貴女が大切に思っている人達に、貴女を失う悲しみを与えてはいけない。残された人達に取り返しのつかない悲しみを与えてはいけない。 もったいない、もったいない、貴女は僕の前でいつも輝いている。貴女が持っているものをほとんど失いかけたこの僕でさえ、差し出がましく月明かりと競ってまだ誰かの足下を照らそうとしているのだから。