靴下

 僕にとっては何十年もごく普通に続けて来ていることだから、日常の風景でしかないのだが、えらい受けた。こんな事で喜んで貰えるのなら、言葉はいらない。  隣の席に腰掛けていた女性がじっと僕の足の方を見て言った。「変わった模様の靴下ですね」と。僕は外出するときは基本的に白色の靴下を履くから奇妙なことを言うなと思った。スリッパだからくるぶしから下はズボンから覗いているのだが、膝を曲げてかかとを片方の大腿部に乗せてみると確かにかかとの部分が肌色の如何にもつぎはぎのように見えた。僕にはつぎはぎのように見えたのだが、その女性には模様に見えたのだろう。要は大きくかかと部分が破れてかかとが全部出ていたのだ。履く前から破れていたのか、途中で破れたのか分からないが、どちらにしても結果は同じだ。この程度の破れなら迷わず分かっていっても履いて出ただろうから。僕は基本的にはあてがわれたものを身につけるだけだから、破れているかどうかなど気にもしない。同じ部屋にいた他の女性と男性が1人ずつ覗いてみたが、それこそえらい受けた。受ける理由が僕には分からなかったが、男性は「ジーパンの膝が破れているのはよく見てたけど」と言った。結構観察しているものだとこちらが感心したが、あちらはあちらでひょっとしたら僕の何かに感心してくれているのかもしれない。最初に発見した女性はとてもまじめな方で「靴下の下にストッキングを履いているんですか?」と尋ねたが、これには僕の方が笑わせてもらった。「さすがにそれは履いてはいないよ」と笑いながら答えるのが精一杯だった。  何が自信があると言って、衣・食にお金をかけなかったことには自信がある。今まで自分で買ったものを上げろと言われたら、ほとんど上げれるのではないか。数年に1本のジーパン、それと・・・いやそれだけだ。後はほとんど若い人からのお下がり(お上がり)か何かのイベントでもらったものだ。まだあった、同情してTシャツなんかをよくもらっていた。  僕の靴下であれだけ盛り上がれる人達が僕の学生時代を見たら恐らく寄りつかないだろう。今度は何で盛り上がってもらおうかと思うが、すぐに用意できるのは僕の破れた心くらいかもしれない。