出演者

 目一杯後ろ髪を引かれながらある少女が帰っていった。今まで沢山の人が泊まっていったがダントツの最年少だ。小学4年生らしいが、隣の県からご両親に付いて来ているうちにすっかり薬局が気に入ってくれて、ついにお泊まりになった。我が家に幼い声がするのは20年ぶりくらいだが、さすがにあのくらいの年齢になると放っておいても何とか遊んでくれるので、振り回されることはなかった。それどころか、ご両親から離れての開放感を楽しんでいる様が伝わってきて、少しだけその点でも役立っているかなと新しい発見をした。 僕が仕事中マッサージ器を使っていたら不思議に思ったのか、どうして使っているのと妻に質問していた。妻が僕の仕事ぶりや体調をその子に説明すると「痛みがわからへん薬剤師に相談しても本当には分かってもらえんわ、その点本人が痛かったら分かってくれるやろな」とまるで大人のようなことを言った。幸か不幸か僕は心の痛みも体の痛みも分かってあげれる権利を有している。こんな権利はいらないが、不幸にして当事者になってしまったのだから、「痛みが分かる薬剤師」でいなければならないと思う。そしてもっと言うと、その痛みから解放してくれる薬剤師でなければならない。  足がぱんぱんに腫れた老婆が電動自動車に乗ってやって来た。その為に入院もしたらしい。入院中は腫れも引いていたが帰ったらすぐ腫れたと言っている。足を触らせてもらったが押した指の跡がいつまでも消えない。入院中はベッドで過ごしていたから腫れなかっただけで治ったのではない。医師からどの様な診断があってどの様に治療したのと尋ねたが何ら答えはなかった。何も教えてもらっていないと言う。かなりの高齢で歩くのもおぼつかないような老婆に医療スタッフがどの様に接したのか分からないが、それこそその中に「痛みが分かる」医療従事者はいなかったのだろうか。  負うた子に教えられるのではなく、泊めた子に教えられたのだが、純粋な子供の目は確かなものを見ている。悲惨なテレビニュースをみて顔を歪める子供達がいることを「ニュースの出演者」達もその愚行の瞬間に考えるべきだ。