謙遜

 僕が今事務方をしている漢方研究会には、30代の頃入れてもらった。当時僕は一人だけ極端に若かった。紹介してくれた人が、僕が懸命に娘のために知識を得ようとしていたのを評価してくれたのだ。当時僕の先輩となった人は、最低でも10歳、上は30歳やそこら離れていたと思う。もう何人かは亡くなったがその穴埋めのように、僕より若い人も今では入ってくるようになった。  設立当初からのメンバーである一人の女性薬剤師が今、会長をしている。もう80歳は回っていると思う。今回ある体調不良で入院を余儀なくされたが、見舞いを検討している過程で分かったことがある。そしてそのことを一度も口に出したことがなかったその方の謙遜な生き方に感動を覚えた。  年齢のせいもあるが少し肩が曲がってきて、動作も緩慢になっている。それでも一人で漢方薬を中心の薬局を経営している。実際どのくらいの方の相談に乗っているのかは分からないが、貪欲なところはまったくないから、恐らくのんびりと営業を続けているのだと思う。今回入院を余儀なくされたときに、職業柄息子さんが勤務している病院に入院するのかと思ったら、あることが特別秀でている病院のほうがいいと言う息子さんの助言で、そちらのほうに入院することになったらしい。実は、息子さんは○○大学医学部○○○科の教授だと昨日僕は知った。  医学部の教授と言えば、「泣く子も黙る」くらいの権威と権力を持っているはずだが、母親である会長はそのことを一度も口にしたことがない。いつも田舎の薬剤師もろ出しで、それでもなぜか品と知性はうかがわせていた。その人格ゆえに僕は事務方を負担なくこなせているように思う。いつも僕にねぎらいの言葉を忘れないし、大先輩でありながら、患者さんの処方が浮かばないときは助言を求めて電話をくれたりする。  僕は研究会に入れてもらえて、漢方の知識は勿論、人としての心地よいあり方も教えてもらったような気がしている。僕ら会員が先生と慕う「本当の先生」の永久に及ばない知識や治験は勿論だが、身をもって生き方を教えてくれている先輩の存在が有難いと改めて思う。