覚悟

 「ここは治安がいいですよ。外の人が全然入ってきませんから」と先生は答えてくれたが、「治安はどうですか?」と僕が尋ねたのはそういった意味ではない。  先生と呼ばれている人は実際に教鞭をとっている人かどうか分からないが、日本で言う寮監も務めているみたいだ。日本語を流暢に話すが日本人ではない。名前もなんとなく日本人ぽっかったが、日本人ではない。昨日日本にやってきたかの国の2人の女性のために布団を夜運んであげたのだが、前日の下見のときに気になったさび付いた鉄筋の建物、当日寮に着いた時にたむろする若者たちと、懸念材料ばかりが目に付いた。せっかく僕を頼ってやって(僕は決して岡山を勧めなかったが、知っている人間がいると言うことは心強いのだろう)来てくれたのに、不安材料があれば申し分けない。そうした懸念を取り除くために、偶然会うことが出来た寮監に単刀直入に尋ねたのに、答えは単刀直入に的をはずしていた。  ○○タウンと呼ばれるように、どこの国にもある外国人だけの共同体を見る思いがした。僕は気になったのは閉鎖された、日本人が寄り付かないような、又そう断言する空間だ。向学心に燃えた人たちが集っているような感じが伝わってこなかったのだ。まだ夜の7時過ぎだから若者だったら当然のことかもしれないが不在者も多く、恐らくアルバイトに精を出しているのだと思った。自分の青年時代を差し置いて、老婆心ばかりが芽生えるのを懸命に打ち消しながら再会を喜び、これからの支援を約束してきたが、かかわりすぎて自立を妨げてはいけないと、かつて我が子育てのときと全く同じような覚悟を呼び起こされた。