哺乳類

 ふとしたことで、ずっと気になっていた疑問が解けた。それも「牛窓は進んでいますね」と東京から移住してきた若いお母さんに言われたのがきっかけだったのだからにわかに信じがたかったが、具体的に教えてもらって納得した。  都市部から色々な形で移住してくるが、お母さんと子供と言う組み合わせは多い。今日来た女性もそのパターンなのだが、お子さんが病気の時はどうしているのだろうとずっと思っていた。仕事を休んで職場の評価を下げれば、片肺飛行だと致命的だ。評価が下がってもいいからお子さんの傍についてあげているのか、それとも鬼のようになって子供を家で寝かせているのか。その二つしか僕には考えられなかった。ところが今日薬を取りに来たときに、昨日の嘔吐下痢の漢方薬のお礼を言われた後、「昨日は1日預けました」と付け加えた。東京からお母さんにでも来てもらったのかと思って詳しく尋ねると、あいの光と言う山の上の病院が「病児保育」と言うのをやっていて預かってくれるらしいのだ。初めて聞く単語だったが、全く縁のない僕でも嬉しかった。一人でがんばっている若いお母さん達にちゃんとした味方がいるんだと思ったのだ。部外者の僕でもすごく安心な気分になれるのだから当事者にとってはなおさらだろう。都会にそうしたシステムがないことなどありえないが、車で数分も走ればそのような施設があることを特にありがたがっていた。  僕はそれがどのくらいの費用を要するのか知りたかったので単刀直入に尋ねてみた。すると一日2500円だと教えてくれた。それが安いのか高いのか分からないが、働くお母さんにとって決して払えない額ではなく、職を失ってしまうかもしれない危うさの中でまさに助け舟だろう。その病院も実は土着の病院ではなく、岡山市にある医院の分院らしいが、ありがたいことだ。老人施設を併設しているので老人相手とばかり思っていた。牛窓に戻ったとき「若者の福祉が欲しい」と皮肉交じりに議員などに言っていたが、民間がちゃんとやってくれたのだ。出来ない、しない理由が得意の公よりはるかに体温が伝わってくる。僕らは哺乳類なのだ。