秘書

 会社勤めの経験がないから想像の域を出ないが、仮に一般職から秘書課に配属されたら栄転に当たるのではないだろうか。経営者の、情報も含めて近くに位置することになるから余程の信頼感がなければ任されないのではないか。もし僕がその様な立場にあったら、余程信頼できて、人当たりがよい人を選ぶ。大きな会社組織の中でも同じような判断が働くのではないかと思う。 過敏性腸症候群で苦しんできていたある女性が秘書課に配属されることで悩んでいた。彼女の不安とは逆に僕はその知らせを聞いてとても嬉しかった。自分の評価は卑下してかなり低いのかもしれないが、ちゃんと周りの人は正当に評価してくれていたと言うことなのだから。過敏性腸症候群の方が他者に対して何か評価が下がるものを持っているかというと、僕は何も持ってはいないのではないかと思う。気持ちをすり減らして懸命に頑張っているから、さすがに自分はかなり消耗してしまうが、回りの誰も傷つけていない。寧ろ気を配りまくっているから、周りの人は心地よいかもしれない。  風を切って自転車を漕いで会社に向かうのか、それとも早足で陸橋を越えるのか。スカートを風がもて遊ぶのか、それとも黒いスラックスでさっそうと歩くのか。長い髪を風になびかせるのか、活動的な短く切った髪か・・・・・僕は想像するしかない。でも沢山の言葉のやりとりで僕には分かる。その女性が愛すべき人であり、愛されるべき人であることが。多くの過敏性腸症候群の方の共通した要素を彼女も又持っている。争いを好まない、自分を低く見る、それはそれでいいことなのだが、時には人の好意に安全ベルトをはずして欲しいこともある。

「貴女を出し切れないなんてどの様な状態なのでしょうね。貴女は自分を出してきたのではなく、貴女から溢れるものを他の方が評価してくださったのだと思いますよ。自然に肩肘をはらずに謙虚に、それに優る貴女はありません。虚飾はすぐに見破られます。不器用でも精一杯、それでいいのではないでしょうか。上手く立ち回れる人を会社が求めていたなら今の配属はなかったのではないですか。人は悪意は不愉快ですが、失敗って結構許すことが出来るものです。完璧な貴女だったら、誰も見向きをしてくれませんよ。欠点を晒して誠意を持って、これに優る貴女の武器はありません。僕は今まで、多くの過敏性腸症候群の方の世話をし、又日常生活で恐らく何百万人の人と接して生きてきているはずですが、悪臭がする人間なんて一人も遭遇したことはありませんよ。貴女もそうではないですか。そんな方と今までの人生で会ったことがありますか。世の中にそんな人は一人もいないのですよ。ヤマト薬局」