千鳥足

○○さんへ  10年経っているから完治が難しいとは思いません。人それぞれで一概に結論めいたことを言うわけには生きませんが、30年選手でも完治しているのですから、数字だけでは判断できません。700人以上貴女と同じような方と接してきたので、過敏性腸症候群という一つの症候群の中に、数多の原因と、数多の個性と、数多の環境とがあることを知りました。僕としては一人一人の症状にあわせて作ってきたつもりですが、この数多に対して、処方が適切であったかどうかは分かりません。効果を感じられずに去っていった人も多いですが、効果を感じるまで耐えて頑張る勇気を持っていなかった人も多いと思います。 その人達は10年にも及ぶ症状が2週間で改善しなければもう全否定なのです。この症状が作る性格か本来的なものか分かりませんが、人を信頼する勇気を何かの切っ掛けで復活させてくれればもっと解放されて、本来あるべき生活を送ってくれるものと思います。逆に貴女のように、正面突破を懸命にはかりすぎて、返り討ちにあってしまう方も多いのです。この症状で苦しむ方の中の多くはとても繊細な心の持ち主ですから、僕の言う頑張りすぎ病で蟻地獄に落ちている人、落ちそうな人も多いです。僕はこの症状を治すのは、いや他の病気でも同じですが、まるで冗談のように治すべきだと思っています。正面から取り組まずに、まるで酔っぱらいの千鳥足のようにゆらゆらと、それでいて結局は家に向かって歩いているようなのがいいと思います。大股で懸命に家路を急いでいる姿には余裕はありません。どこかで緊張感をとって、血流を改善し、交換神経優位の状態を脱して、戦わない神経に支配されなければなりません。人と戦うことが苦手な方に限って、自分と戦ってしまっているのです。まるでボクサーのように心も身体も縮こまっていては治りません。 「大和さんの所で修行させてもらえないでしょうか?」 僕はご存じのように直球を投げる投手ではないので、貴女に修行して頂くことは出来ませんが、あなたに楽しく過ごしてもらうことは出来ます。貴女の今よりも数回笑いが増えて、数回景色に感動し、数回人の優しさに触れて頂ければ、貴女の心から戦いのポーズが少しだけ消えます。人を信頼して自分のあるがままを晒すことが出来れば、過敏性腸症候群なんて治ってしまうのです。決して越えることが出来ない壁を越えることが出来る漢方薬。生きづらい今の世情の中で僕が多くの方に服用して頂きたい処方なのです。お腹ごときで大切な時間を失って欲しくないから。 ヤマト薬局