土砂降り

 口を開くたびに笑顔が広がる人がいる。笑いではなく笑顔なのだ。その笑顔の由来は何なのだろうと尋ねたくなるが、ぐっと我慢している。どうしてそんなに笑顔なのと聞いたりしたら、馬鹿にしているようにとられかねないから。笑顔と笑いは似て非なるものだと思うのだが、混同されてしまう懸念があるから迂闊には聞けない。ただ、笑顔がこぼれるような人は、その様な誤解もしないだろうなと別の判断も働く。  そのお嬢さんの母親も良く知っている。小学校の校長先生で牛窓に赴任していたが、特別笑顔がこぼれるような印象はもっていない。学校保健委員会と言う奴で、年に1回、役職上顔を合わせるだけだったので、そのお母さんを通してだけで推察することは出来ないが、とても遺伝子のなせる技とは思えない。育つうちに後天的に得た素養なのだろうか。教師はとても過酷な職業だから、余裕を持って育てれるとは思えないし、いやいや、おばあちゃんでもいて溢れんばかりの愛情を持って育てたのだろうかと、推理を働かせるのは、それと対極にしか位置できなかった僕自身の後悔からか、はたまた羨望からか。 薬局に来るくらいだから悩みを抱えている。それを僕に解決できるかどうか分からないが、出来なかったときもきっとあの笑顔で諦めてくれるのだろう。曇り顔が似合わない人に、傘をさしかけられる。今日も土砂降り。