勝因

 この時期は新たな環境に入っていく機会が多い。そうしたとき往々にストレスが身体に反応を起こす。過敏性腸症候群などはその典型だろう。相談が一度に増える。 高校に入学が決まり、式が迫ってくる頃から下痢をするようになった。自分も過敏性腸症候群のお母さんはすぐに気がついた。でも僕はお母さんと相談をし、決してその病名を口に出さないこと、いやいや、病気という認識を絶対させないことを約束した。心配なのは分かるが、お母さんには演技をしてもらうのだ。おおらかに振るまい軽く聞き流し、漢方薬を何気なく渡す。あたかも風邪を治すような感覚だ。それ以上でもそれ以下でもない、ごくありふれたトラブルとして対処する。休み中、制服などを買いに行くために登校したときに、てっきり腹痛と下痢を起こしたので、入学式の日から漢方薬を飲ませた。下痢も腹痛もなく何とか過ごせたらしい。お嬢さんに軽く尋ねてみて母親も安心していた。その時にひつこく確かめないのがこつだ。結局3日分の漢方薬で治ってしまった。クラスに友達が出来て、登校が苦でなくなった。これで完治。  勝因は、ストレスで下痢をするなどと言うことを教えなかったこと。冷えでも生理でも食べ過ぎでも良いから原因を勝手に作っておけばいい。その間に治してあげればお腹のことなんか忘れて考えもしなくなる。近辺の人達はこうして治す。青春の、もっと言うと一生の生活の質をこれで落とさなくてすむ。お腹などで苦しむのはもったいない。炎症でも潰瘍でもあるのなら仕方がないが、ただ繊細だという本来なら長所にあたる理由で苦しむのは痛々しい。  こんなケースは僕の統計に入れていないから、本来ならもっと患者さんは多くて治癒率ももう少しは高いのかも知れない。