祈り

 僕は病院の処方箋調剤からほとんど手を引いているから(薬の種類が多すぎてついていけれないし、パソコン作業が多すぎてこれもまたついていけれない)その方に会う頻度は少なかったが、その人がかもし出す雰囲気にいつも救われていた。お子さんを何十年も世話をしてこられているから気丈な方の筈なのに、優しそうな印象しかない。何に例えればいいのかわからないくらい、僕には神々しかった。  足元にも及ばない、それが率直な感想だ。突出した才能を持っている人は日々目にするが、その人たちに対して足元にも及ばないと表現しようとは思わない。確かに才能は認めるが、尊敬の念は起こらない。ただこの方には尊敬の念が自然と発生する。勿論ご本人はそんなこと微塵も考えていないし期待もしていないだろうが、誰かが御家族全員の労苦を褒め称えないといけない。  少なくとも僕はそうした方を二人知っている。どうしてそんなに冷静でおれるのか、どうしてそんなに素敵な笑顔が出るのか、いつもその疑問を繰り返していた。僕らの薄っぺらな愛より100万倍深い愛情は何処で身についたのだろう。母親の胎内でか、後天的な環境でか、手を伸ばしても届きもしない所にいる僕には想像もつかない。  頑張って、頑張って、頑張った人が、薬を届けた僕の妻が「大丈夫ですか?」と声を掛けたのに対して「頑張ります」と答えたらしい。いつまでも何処までもお子さんに対して頑張る人なのだ。  何の役にも立たなかったが、陰から応援させてもらい、陰ながら祈った。人知れずできることは祈りしかない。