宝物

 どう見ても正反対の人間だろうと言いたくなるが、こと自分のことになると冷静な判断はなかなか出来ない。失礼だから敢えて聞かなかったが恐らく体重は3桁近いのではないか。その彼が2週間咳が止まらないから、最近お笑いタレントの女性がかかった病気ではないかと心配で薬を取りに来た。問診するとおよそその様な懸念はない。寧ろ不摂生の固まりのようなもので、漢方薬を飲んで寝ていれば治りそうだ。いやいや、寝ていなくも彼なら治るだろう。働きながらでも、まっとうな生活をすれば何でも治りそうなくらい素晴らしい体格をしている。素晴らしすぎて、青年がおじさんの病気をしてしまいそうだ。成人病まっしぐらかな。  皮膚に水分を十分に蓄え、しわもシミもない。髪は黒々として艶があり、身体はしなやかで強靱だ。どんな動きも出来るし声さえも美しい。これが若さなら、心もどれだけ美しくてしなやかだろう。見えないけれど心だけがそんなに置き去りにされることはない。自信を持てばいいのだ。外観と同じようにしわもシミもない心なのだ。未熟は欠点ではない。未完は結果だが未熟はまだまだ経過だ。  僕は現代が若者にとって好ましい時代かどうか良く分からない。能力を十分生かされているのか、チャンスを与えられているのか、希望の象徴として期待されているのか。職業柄かも知れないが、僕には青年達がとても輝いて見える。あの生命力はどんな科学の力をもってしても復元できない。そんな生命力の固まりを僕は畏敬の念を持って眺めている。社会は彼らを、彼らは自分たちを大切にして欲しい。ゆめゆめ与えられた宝物を川に捨てたり、草むらに隠したりしないように。宝物は輝きを放たなくては。