お母さんへ

彼が特別ではありません。誰もが青春期は同じように迷路の中で出口を捜しているのではないでしょうか。僕も確たる明日を描くこともなく、いや描くことが出来ずに悶々と時間をひたすら消化していただけです。多くを授かってもいないのに、何かが出来るような錯覚を幾多も経験し、さりとて努力と言うものはとみに苦手でしたから、何かに向かって歩みを進めることもありませんでした。まるで流れない川のように希望と言う名の生き物が住める環境ではありませんでした。僕は身なりを含めてありとあらゆる形あるものにはルーズでしたが、やはり青春期特有の潔癖な心は持っていました。その為に多くの不自由を強いられましたが、はからずもその体験が今沢山の若者に生きています。 息子さんの日常の葛藤も、彼を成長させるものですから関心を持ちつつ無関心で、彼の言葉を待ってください。恐らく回りの大人にとっては好青年にしか見えないでしょうね。僕もその言葉以外が見つかりません。特に一人で泊まりに来た時は以前に会った時より随分と大人びて、嘗ての僕自身の残像と重なることもしばしばでした。未熟だからこそ未来があります。僕はその未熟さが羨ましいです。とるに足らない鎧を着て戦場を駆け回っている大人達の方が滑稽です。僕は彼が落ち込んでいる間、希望を感じるのです。殻を割って出てくる雛の姿に重なるのです。もう破るべき殻もない僕らから言わせれば、未来を引き寄せる脱皮です。追えば逃げ、手が届くのはせいぜい今日の終わりまで。そんな僕らには危惧する資格もないのです。田舎をこよなく愛している青年の明日が、重たくたれ込めた雲に覆われ続けるはずがありません。連峰の彼方に用意された空は、すでにもう晴れ渡っていますよ。 ヤマト薬局