評価

 あるおじいさんは、医院にかかったら必ず処方箋を当方に持ってくる。当方はいわゆる医院の前で小さな建物を建てて営業する門前薬局ではないので、その医院にあわせた薬は常備していない。必ずしも処方箋と引き替えに薬を渡せるとは限らずに、当日、あるいは翌日に渡すこともしばしばだ。向こうも不便だろうし、当方も気が引けるのだが、がんとして持ってくる。今日何かの話のきっかけでその謎が解けた。  医院と薬局が持ちつ持たれつのように見えるので、余分な薬を飲まされるような気がするというのだ。高校の英語の教師だったその老人は、今でもとてもしっかりしていて、自分の健康にはかなり気を使っている。先生を辞めてから農業を覚え、今では立派な果物や野菜を作る。無農薬で作るから、しばしば頂いても安心して食べられる。そんなこだわりの方が、余分な薬を飲むことはあり得ない。必ず吟味して服用する。息がかかっていない薬局に処方箋を持って行かれることが分かったら、無駄な薬を出されまいと思っているのだ。いわば自己防衛しているのだ。  実際にそんなことがあるのと尋ねたら「ちょっと鼻が詰まったと言っただけなのに、もう薬が出ていた。独り言も言えない」と教えてくれた。ここは評価が別れるところで、それだからありがたがる患者さんもいるだろうし、老人みたいにうさんくさく思う患者さんもいるだろう。何事も一律とは行かない。自分の価値観に沿うところを見つけるしかない。こちらとしては見つけてもらうしかない。  大学を卒業して、行き先を失うように帰ってきた田舎だが、時代が変わったのか、自分が変わったのか分からないが、このたおやかな風以外に僕を飛ばし続ける風が吹くところはなかったと今ではこの地に感謝している。