心の敵

 朝早く1人、お昼頃又1人。過敏性腸症候群がほぼ治ったとお礼のメールをくれた。ほぼというのは、どちらも実際には完治なのだろうが、治った経験がないので、治っている状態を確信できないから、とりあえず治ったと言ってきてくれているのだと思う。しかし、共通している文章の内容は、もうずっと薬を飲まないでいる(手元には少し残っているが)と、お腹のことは忘れて考えることもないの2点だ。このことこそが完治を証明している。それで十分だ。朝目覚めればお腹のことを考え、人が傍に来ればお腹のことを考えていた人達が、お腹に想いが行かないなんて、完全なる脱出だ。目指すところはこれ以上でもないし、これ以下でもない。  朝の連絡をくれた女性は、2週間分を1回だけ。お昼に連絡をくれた女性は丸6年飲んでいる。よく初めて僕の薬を飲む人が、どのくらいで治りますかと尋ねるが、それには答えないようにしている。正直そんなことは分からないのだ。でも、今日の偶然の出来事がその答えになると思う。どちらもが答えなのだ。発症の理由、経過、環境、体力、あげればきりがないほど疾患の構成要素はいっぱいある。それを簡略化して、およその目安にするには根拠が乏しすぎる。分からないことは分からないのが一番正しい。  完治への道程は恐ろしく異なるが、2人に共通していることがある。2人とも僕によく質問をした。恐らく今までは、日々の不快な出来事を1人で悩み解釈してきたのだろうが、その答えが思い込みの範囲を出るのは難しい。自分のことになるとまずよい方向では考えられない。冷静な答えは得がたい。2人とも、よく質問をしてきた記憶がある。疑問をその場その場で解決して、思い込みから脱出したのだろう。僕は初めてお世話する方に、正しい薬と正しい知識が必要というけれど、2人ともそれを実践してくれたのだと思う。この2つがなければ治らないし、この2つがあれば治る。  2人の喜び溢れる報告を大切に僕は保存しておく。これからは人が変わったと言われるほどの人生を歩んで欲しい。堂々と、何ら気後れすることなく。もう自分の心の中に敵はいなくなったのだから逃げる必要はない。