スイーツ

 関東の人が伊豆に旅行に行って、そこのスイーツを僕に送ってくれても何ら特別な話ではない。ただ、彼女が送ってくれたことに意味がある。 この女性は数年前に、過敏性腸症候群の相談で関東から泊まりに来て、その後数ヶ月漢方薬を服用して完治した。ここまでなら沢山の人が同じことをしている。ただこの女性はそれ以後も、ことある毎に悩み事があると僕の意見を聞いてくる。若い女性だから僕の苦手な分野のこともあるが、何故か上手くその都度危機を乗り越えてくれている。だからお腹の方も再発しないのだと思う。僕は時として父親のように答えを出すし、近所のおじさんのようでもあるし、会社の上司のようでもある。勿論薬剤師のようでもある。  薬局で一緒に並んで写した写真を見ながら相談するようにしているから、電話越しながら結構臨場感を持つことが出来る。だだあれからもう数年会っていないから、実際にはもう少し大人になっているだろう。今回は傷心の一人旅ではなく、彼との旅行を楽しんだのだから、どこにでもいるごく普通の女性として、何らハンディーを持つことなく暮らしているのだろう。繊細なくせに体育会系という独特の雰囲気を持っているが、都会の中で青春を復活させてくれていることをとても嬉しく思う。牛窓に来たときに僕が話したのか、あるいは沢山会話しているから僕の好みがわかったのか、まるで弓矢で的の中心を射抜いたようなスイーツの選択だった。こんなに美味しいものがもらえるのなら毎日でも相談してあげたい。 招かれざる体調不良が縁で多くの人と知り合ったが、完治の後もこうした縁が持続する人が時々いる。長短はあるが人生のある期間をお腹ごときで無駄にした人達の復活劇ほど僕を勇気づけてくれるものはない。クロネコヤマトで送られてきたスイーツは、僕や家族や患者さんの胃袋に収まったが、僕の心の中にはいつまでも甘いままで残る。