分相応

 どうしてもっと早く相談してくれなかったのかと思う。不本意な帰国を2週間後に控えて初めて心のうちを話してくれた。日本で心を許すことが出来る仲間に恵まれなかったことが原因らしいが、かといって帰国してから何の保証もないことを漏らした。帰国してからの不安は、健康と仕事の両方らしいからひょっとしたらこちらにいるときより深刻になってしまう可能性すら含んでいる。体調の不安に対する注意と処方、心の不安に対する対処の方法と処方を伝えたが、そしてそれらが必要になればすぐに送るからと約束したが、まるで薬局に相談に来た患者さんと同じレベルの話をした。今までなら僕が問診めいたことを始めると、日本語が堪能なくせに突然〇〇〇〇語になったりしていたが、今日は自分から不安ですと喋り始めた。  今日同じ国の女性に、母親をなくしたときのいきさつを聞いた。心臓をはじめ他の内臓も弱っていたのに、医療費が高くて病院にかかれなくて、蜂蜜か何かの民間療法で対処したらしい。勿論それで救われるはずがなく、若くして亡くなったらしいが、その話を聞いた後だけに、帰国する青年に、「僕に向かって悲鳴を上げて」と何度も約束した。母親をなくした女性と同じような無念を経験させたくない。折角僕と知り合ったのだから、そしてそれが漢方薬を作ることが出来る人間だったのだから、その縁を利用して欲しい。贅沢三昧の挙句のこの国の人が、おかれた境遇の有り難味も感じることなく、湯水のように薬を浪費する姿と、正に対極にある人たちこそ救ってあげたい。  今日会った二人の女性の話をふと思い出すたびに悲しくて涙が出てくる。役に立てるくらい、もっともっと大きな力が欲しいが、もしそれを手にしていたら、こんなに心を傷めることも経験できなかったのだろうか。分相応。空しくもあり救いでもある。