桁違い

 僕の質問に考えられないような数字が並んだから、「えっ?」「えっ?」と何度も聞き返した。いくら酒が残らないようにしてくれと言われても桁が違いすぎる。それでも何人かが、恐らく同じグループだと思うのだが、二日酔いにならない薬を頻繁に取りに来るからよく効いているのだろう。 「二日酔いにならない薬を10人分作って!」と言いながら入ってきたのは今まで見たことがない青年だった。とにかく大柄だった。190cm、90kgは保証できそうだ。白い大きな長靴を履いているからすぐに漁師か水産物の加工業者だとわかった。二日酔いの薬を頼まれたので普段頻繁に来る人達の仲間ってこともすぐに想像できた。  会計がすんでから「一体自分たちはどのくらい酒を飲むの?」と尋ねてみた。この答えが考えられないくらいの数字だったのだ。「イベントでもあれば、だいたい2升くらいかな。焼酎が5合くらいで、その後ビールが10本くらいかな」と答えるから、「それを何人くらいで飲むの?」と尋ねるとなんと一人でそのくらい飲むのだそうだ。こんな答えを聞けば誰だって聞き間違いだと思って何度も聞き返すのではないか。少なくとも僕の常識の中にはこの数字はない。平生は飲まないのと尋ねると、飲まない日はないらしくてほぼこの半分くらいに抑えているという。  もし顔の造りが悪かったら道ですれ違うのも恐ろしくなるような体格だが、良くできたもので結構童顔なのだ。口を開く度に笑顔が零れる。そこで僕も素朴な疑問を投げかけてみた。どう考えても健康でいられるはずがないから「どうして生きておれるの?」と。すると彼は一瞬だけ間をおいて「酒のおかげじゃろう」ととっておきの笑顔で答えた。なんて上手い答えを返すのだろうと感心したから僕も「死ぬまで通っておいで」とエールを送ってやった。