哀れなものだ。結局は相手にされていないのだ。言い方を変えれば見殺しにされているのだ。人を小馬鹿にしたようなしゃべり方をするから、どこの病院の医師も相手にしなかったのだろう。その気持ちは分かるし、医者ではないが僕も同じだ。寧ろ僕の方が薬剤師という軽い肩書きだからもっと単純だ。  「軽い肺炎の薬ない?」と言いながら入ってくるから妙なことを言うなと思った。元々この数年人が変わってしまって、妙なこと以外を聞いたことがないから、いつものようにこちらも頭はお休みモードのままの応対になる。肺炎と聞いて病院に行ったかどうか聞かない人はいないと思う。当然僕も尋ねたが、病院で診断を受けての結果らしい。何か薬をもらったのか尋ねると、何ももらっていないと言う。おかしな話だ。軽いから1ヶ月様子を見るように言われて様子を見ていたが、息苦しさが軽減しないから数日前又受診したけれど、又何もくれなかったという。CT検査までしたと言うから診断に疑いの余地はない。ただ、軽い肺炎ならそれこそ、ちょっと抗生物質を飲むだけですみそうだから、薬をくれなかったのが腑に落ちない。軽い肺炎、軽い肺炎・・・間質性肺炎?ひょっと思いついて「ひょっとしたらお医者さんは間質性肺炎って言わなかった?」と尋ねると「そうそう、それそれ」と答えた。「絶対それに間違いない?」と畳み込んで尋ねるとその事に関しても間違いはなさそうだった。  「なんだ、軽い肺炎ではなく重い肺炎ではないの」と説明を始めたが聞く耳は持っていない。薬はないの?の繰り返しだ。人の話をまともに聞かなくて自分の要求ばかりを口にする。試みに「タバコを吸っているの?」と尋ねてみると、やはり沢山吸っていて、止めるつもりなどさらさら無い。これなら医師もその患者を守るより自分を守りたいだろう。手を尽くしても目の前で自殺行為をやられたら叶わない。引くに決まっている。僕も当然どん引きで、「そんな薬あるわけ無いではないの」と身を守った。  まだ健康の後ろ盾がある年齢ならえらそうに振る舞っても足下をすくわれることはないかもしれないが、いざ歳をとると回りの助けなしでは暮らすことは出来ない。若い頃の過ごし方のしっぺ返しを、本人が気がつかないうちに食らっている。謙虚を学ぶ機会がなかった哀れも思わないこともないが、頭を下げることなく過ごしてきた報いはかなりの苦痛を伴う。人に差し伸べたこたがない手には、誰の手も差しのべられない。