下宿

 良かった、良かった。昨夜学校をもう辞めようかと相談を受けた女性が、今日は行けた。今日恐らく学校に行けないだろうから、薬局に漢方薬を取りに来ると言っていたが、夕方になっても来ない。ひょっとしたら行ったのではないかと期待していた。案の定行ってくれたらしい。丁度電話があったのは、過敏性腸症候群を克服して医療系の専門学校に今年入学した女性と話をしていて、その子も行けるといいなと2人で心配していたところだった。このトラブルの先輩である彼女は、2日学校に行けなくて今日休んだらもう恐ろしくて学校には行けなくなるだろうと言うのだ。丁度その様な話をしているときに電話がかかってきたので、2人で喜んだ。彼女は丁度試験前で、体も疲れているが、1学期を乗り切ったことが自分自身も不思議な感覚のようだった。信じられないと言うような顔をして話をする。高校時代の地獄のような教室、フリーター時代の挫折感。全てを克服した彼女が、同じ道を歩んでいるその子のことを本気で心配して、喜んでくれる。こんな光景は僕にとっては最高のプレゼントだ。  実は、その子は今日学校に行った後、邑久駅経由で牛窓に来るつもりだったらしい。いや、邑久駅までは来ていたのだ。ところがバスに乗ったら又岡山の方に帰っていったらしい。専門学校の彼女とまさに薬局で会えた時間帯なのだ。彼女は、車で30分くらいの所に住んでいるので、役に立てるなら回復の体験談をいつでも話に来ますよと言ってくれているので、出会えなかったのが本当に惜しかった。  その子は2週間前突然やってきた。県北の子だから当然その気になれば来れるのだが。2週間分の漢方でまだ改善はみられなかった。学校を辞めたいというのが不憫で、1時間くらい電話で話をした。目が覚めれば胸が苦しく、お腹が張り、痛くなるらしい。ところが僕と電話で話をしている時間治っていたのだ。2週間前、薬局で数時間一緒に過ごした時も治っていたらしい。そうか、僕が傍にいるか、話をしているときに治るのなら、いっそのこと牛窓から学校に通えと提案した。海が好きな子だから丁度いい。治るのだったら、漢方薬でも、僕のギャグでも、海辺の景色でもなにでもいい。将来を一杯持っている青年がお腹ごときで頓挫するのはもったいない。縁あった子が、幸せになるなら何でもするのが大人としては当然のこと。それが軽薄な人生を送った人間の当然の恩返し。少しでも人生が許されるなら、出来ることはさせてもらうのが当たり前。いくら頑張っても恐らく社会から受けた恩恵の万分の一も返せれない。一つの涙が、一つの笑顔に変わるよう、小さな手伝いが出来たらいい。分相応の。