軟弱

 しんしんとと言う形容詞は今日のような日に使えばいいのだろうか。 目覚めも遅かった。雪が音を消していたのだろう。あわてて朝ご飯を食べ薬局に立ったが、どことなく身体が本調子ではない。けだるさでもなく、熱感でもなく、頭重でもない。身体がなんだかとても冷たいように感じた。元気がないように感じた。気合いを入れてみるが身体が何とも反応しない。時々2階の屋根から溶けかけた雪の固まりが落ちるが、薬局の前に広がる雪景色が変化しているようにはなかった。  エアコンのスイッチを入れて1時間以上経っても体が暖まらない。気になって調剤室の寒暖計を見てみると、なんと12度だった。それで納得した。その気温はこの辺りだと冬、戸外にいる時とほぼ同じ気温なのだ。簡単に言えば、ごくありふれた冬のある日、戸外にじっと立っているのと同じ経験を家の中でしていたわけだ。それで朝からの不調の意味が分かった。寒い戸外にじっと立っていたら、恐らく熱量は奪われ、動作は緩慢になり血流の不自然さに体調が引きずられるだろう。それに気がついてから、いつもなら午後にする体力を少しだけ要求される作業を始めた。その作業にかかってからあの不愉快さを忘れていった。  温暖なところに住んでいる人間の単なる油断だが、滅多に経験しないことには想像力も乏しくなる。寒暖計の数字を見て初めて気がついた。体感よりも数字の方が説得力があるのだ。北国の人には申し訳ないようなレベルの話だが、なんとも間が抜けた話だ。偶然その後東北の女性と電話で話をしたが、彼女の話の中に零下7度とか8度という数字が出てきた。自分の軟弱さが際だつ。北国の人はいろいろな意味を含めて強いのだろうなと想像する。