別れ

 職業柄、日々新しい出会いがあり、又別れもある。ところが私的な領域では、出会いも別れも少ないのではないか。希薄なつき合いはあまり好きではないので、出会った人の名前も覚えない。考えが近く多くを知りたいような人にはほとんど巡り会わなかったから、残念な別れもない。現代では本当に大切な人との別れは、死別以外ないのではないか。地球がどんどん小さくなっているので実際にどこにいても瞬時に連絡は取れるし、会うことも時間単位で可能になる。悲しい別れは分かれてもいい人の間柄でしか起こらないと思う。  かなり以前の話だが、台湾の女の子を頼まれて数日ホームステイさせたことがある。さすがに情が移って、別れの日、泣き続けるその子を見てこちらも涙を誘われた。二度と会わなくてもいい関係で、二度と会うはずがないのでセンチメンタルになっただけなのだと思う。その時にもう誰も以後、受け入れまいと決めた。  日曜日、又フィリピンにある女性が帰っていった。国には新婚のご主人が待っている。2年間の親切をとても感謝しますと言われたが、僕たちが与えたものは少なくて、頂いたものの方が遙かに大きい。両親、或いはおじいちゃんおばあちゃんに当たる世代の人をとても大切にしてくれた。恐らく、こんなに親しく大切にされる経験を実家族ではなかなか味わえないのではないか。多くの人が彼女の帰国を残念がったが、彼女には寂しさはなかった。国に帰って家族に会えることをとても楽しみにしていた。送られる人には次があるから悲しみは余計薄いかもしれない。送る人も送られる人も深刻でないのがいい。