奇跡

 普通科高校に進学して、英語の教師を目指していた子が、過敏性腸症候群のために満足に勉強も出来ずに卒業後工場に就職した。最初に就職したところも辞めて、今は服を売る店で午後の4時からバイトをしている。その子がインターネットを見て訪ねてきてくれたのが、今年の6月。最初の頃はお母さんと一緒に来ていた。母と娘で僕の前で涙を流したこともあり、その後も、涙もろい彼女は何度も僕の前で涙を流した。少しづつ行動範囲が広がるようになり、ヘルパーの養成講座に申し込み出席できるようにもなった。その過程で医療に興味を持ち、ある特別な資格を見つけた。現在求人倍数何十倍という特殊な職業だが3年間専門学校に行かなければならない。その試験を受けると言い出したのは恐らく2ヶ月くらい前だったと思う。以来、親も感心するくらい勉強をしていたらしい。ただ、あまりにも期間が短かったので、僕は試験会場に行けるだけで十分だと思っていた。16日の発表の日はそれでも10分ごとにメールを開いて奇跡の報告がないかと1日中待っていた。これで受かればほかの受験生に失礼だなんて勝手な慰めを用意して僕は諦めていた。ところが今日彼女が、合格通知を持って入ってきた。奇跡に近いことってあるものだと思った。僕をびっくりさせるために直接合格通知を見せようと言うことにしたらしい。その甲斐あって、本当に驚いた。地獄から天国まっしぐらだ。国家資格を持って生きるのと、アルバイトで生きるのとでは、それこそ天地の差がある。ふとしたきっかけで僕の薬局を見つけ、ふとした涙で過去と決別でき、ふとした漢方薬で改善し、ふとした興味で勉強の道に帰り、ふとした出会いで専門職を知った。何かの拍子にこんなに人生が変わるものかと思う。その一つのふとしたことに参加できて僕はとても幸せだ。とても幼く見える愛くるしい女性だから、それも青春の一時期を一人で苦しんだ人だから、僕は患者さんに喜ばれる職業婦人になると思う。  偶然だがもう一人今日、大学に合格したと報告を受けた 。この子は家族で牛窓のホテルに泊まって訪ねてきてくれたのだが、しっかりとして知的な子だったから合格に関しては全く心配していなかった。  体調のせいで、人生を下方に修正しなければならないとしたら、また、公平であるべき選択のスタートに立てないとしたら、こんなに不公平なことはない。僕はそのことには耐えれない。世の中、公平であるべきだし、平等であるべきだと思うから。