笑顔

 2年間日本で働いて、来週フィリピンに帰っていく女性が皆の前で挨拶した。たどたどしい日本語だけど2年日本で働けばあれだけ日本語も出来るようになるのかと感心する。昔6年も英語を勉強して、さっぱり話も出来ない僕からすれば驚異的だ。やはり必要こそが上達の第一の条件なのだろう。英語が本当に必要な状況など全くない僕にとっては、単なる受験の手段だったから、試験が終わったら全部忘れてしまった。  帰る前に、「あなたがいなくなると寂しいよ」と言うと、「天国で会いましょう」って彼女が言った。一瞬何のことか分からなかったが、二度と日本に来ることはないだろうって事を言いたかったのだろう。弾いたこともないギターを習い、大きな声で賛美歌を歌っている姿は、宗教が当たり前の環境で育った人達の飾り気のない宗教心をかいま見る想いがした。僕のように理屈で入っていったような人間とは全く違う。奔放で敬虔、相異なるような二つの要素を自然に備えていた。  国境を越えてくる人達の最大の武器は、いや最大の防御は「笑顔」だと思う。笑顔さえあれば、日本人は親切だ。僕には経験はないが、おそらく逆も真なりなのだろう。たどたどしい日本語で挨拶した彼女は終始笑っていた。湿っぽさがなかったのが救いだった。