涙雨

雨を見たのはいつからか 雨に当たったのはいつからか 鏡の中を往来する車は 水しぶきをけたたましく上げながら 日常を満載して 朝を走り抜けていく 行き場を失った烏は 残飯を横目に鳴き声だけを残して飛び去る

関西の心を持った義兄が 関東の地で暮らし関東の地で逝った 抜けるような倦怠感は 義兄の涙雨 アスファルトを濡らしたのは 前線がもたらした北の雨か 「ぼけ」で周囲を弛緩させた 義兄の涙雨か

電磁波に暴露された肉体が 精神の構造を絶つ 無数の水滴が浮遊する精神を浄化することに誰も気がつかない どこに降るのか涙雨 どこに行くのか涙雨 誰と降るのか涙雨 どこでやむのか涙雨