どこにいたのか数羽のカラスがけたたましく頭上を飛んでいった。本来ならカラス達のお気に入りの夜間照明器具の上で一休みするのだが、そこには目もくれず飛んでいった。すると程なくピューピュルルーと鳶の鳴き声が聞こえた。見上げても飛んでいる姿は見えない。しかし確かに鳴き声は聞こえる。微妙に鳴き声は変わるが懐かしい声だ。どこから聞こえてくるのか分からない。ずいぶん遠く、山の向こうのようにも思えるし、結構近く、頭上のようにも聞こえる。テニスコートから眺める空は遮られるものが少なくて広いのだが、マンションのてっぺんに緊急避難したカラス達と意外と動じない雀たちしか見えなかった。 普段天敵がいないせいか、カラスの縦横無尽ぶりにはいささか眉をひそめることもあるが、彼らとて苦手なものはあるのだと安心した。動物でも人間でも、自分が一番上と思っている輩は好きではない。何か手に負えないもの、天敵とは言わないまでも、自分を低く見なければならないような対象を持っていることは大いなる救いだ。逆にそれを持っていない人、そう言ったものに遭遇することなく来れた人は不幸だ。そうした人達がえてしてとる行動、例えば経済の物差しで人間を測るならそれはカラスと同じだ。ツバメを駆逐し雀を駆逐し、鳶に怯えればいい。安住の場は強者の立場でしか得られないだろうから。 大空を知らない雀たちは、ピューピュルルの鳴き声は恐ろしくないのか、いつものようにテニスコートのネットで遊び、草むらに降り立っていた。争う対象にもならない小さな鳥は、カラスのいないコートを独り占めにして餌をついばんでいた。高く飛べない鳥にだって、高く飛ばない鳥にだって、自由はあるし喜びもある。忘れられたテニスボール一つに蘊蓄の砂。