センチメンタル

 「お疲れさまです」彼女のメールは毎回必ずこの言葉で始まった。僕は会社に勤めたことがないから集団で働いたことがない。だからこのような言葉でいたわられたことがない。メールをもらうたびに何となく連帯感みたいなものを感じていた。何の根拠もなく彼女の住所の県名をみて、勝手に山奥に暮らしている人と決めつけていた。数年前、印象的な地震の災害の様子を長時間見せつけられたので、そのイメージが残っていたのかもしれない。山深い集落から毎日街まで渓流に沿って車を運転して通う女性を勝手に想像していた。ところが実際彼女が住んでいる町は、牛窓と同じように沿岸の町だった。それで余計親しみを覚えたものだ。短い文章の中で確実に快復している様子が伝わってきていた。  今日頂いたメールが今まででひょっとしたら一番長いかもしれない。例によって「治り方」の良い見本になると思ったので、現在過敏性腸症候群の僕の漢方薬を飲んで頂いている皆さんに読んでもらいたくて、彼女の承諾を得てから載せた。僕の依頼のメールに応えてくれたメールも又併せて読んでもらうことにした。  瀬戸内海と日本海とでは同じ海でも全然雄大さが違うだろうが、同じ田舎で暮らす人間としていっぱい幸せを手にして欲しい。人に分け与えるほどの幸せを。大きくなくてもいいから、手のひらに乗る程度でいいから。

 「この一年で私は少し変わりました。自分が抱えているおなかの症状を友人に話すことができ、受け入れてくれた事で気が楽になり、人もそれぞれで優しい人もいて頑なに自分を守るのではなくゆだねてみようと柔らかい思考が生まれ、あきらめかけていた歯医者に通えるようにもなり、この変化は漢方薬を飲むようになり体が軽くなり大和さんの言葉に心が軽くなったおかげです。本当にありがとうございます。 これからは困ったら大和薬局がある事を支えに、少しずつとは思いますがのびのびと生きていきたいです。ありがとうございました。」

「ブログに引用の事ですが私の拙い文章でよければどうぞ使って下さい。私も長い間一人で苦しんでいました、いろんな事をあきらめかけていて、殆ど絶望していました。ですから、わずかながらでも誰かの心がやわらいだとしたら、うんと苦しんで来た時間も無駄ではなかったと思える気がします。大和さんもお身体に気を付けて、お元気でいて下さい。ありがとうございました。」

 この2つの文章を並べてみて、今更ありがたいなと思った。僕は職業的に皆さんを少しでも元気にしないといけないが、彼女が僕をいたわる理由はない。何でこんなに優しいのだろうと、僕には有り難すぎる言葉だ。実はこうした言葉を必ずかけてくださる人が数人いて、その人達の人格を想像してしまう。恐らくどなたも、大きな力も、大きな肩書きも、底知れぬ活力も持っている人ではない。どこにでもいるようなごく普通の人達なのだが、この僕を自然に気遣ってくれる。僕に出来る唯一のお返しはお腹を克服して自由に飛び立ってもらうこと、それに尽きる。  遠く離れていても一時期一緒に同じ目標に向かって生きてきた。そんな気がした。今夜はちょっとだけセンチメンタル。