言葉

 迷走台風が連れてきたのは、秋の空気。気温も湿度も、ついでに不快指数まで下げて、深い眠りに高い空。 迷走台風が残したものは、このさわやかな日が明日もきっとあると何も疑わずに思っていた人達の無念。誰がこの先1秒後に命を奪われると思うだろう。誰が青空をもう二度と見ることが出来ないなどと思うだろう。  森を養い海を養い、毎年実り豊かな作物を与えてくれる雨は慈悲の雨。牙をむけられたのはその雨と共存してきた人達。雨を知り尽くした人達。いくら数字を並べられても、天災は孤独なものだ。濁流の中で土砂の中で恐怖をただ一人で受け止める。これ以上の恐怖はないだろう。  自然と共存している地方が、自然にやられて、自然を破壊している大都会が自然に強い。なんと皮肉なものだ。田舎の忍耐と寛容で都会を養っているのに、やられるのは田舎の人達ばかり。これでは割に合わないだろう。  段波。崖崩れが起こした川の津波か。知らない言葉を数多く今年は聞く。知らない方がよかった言葉を沢山聞く。知らないでおきたかった言葉を沢山聞く。知らないですまされなかった言葉も沢山聞く。  夜、もったいないほどの星が降る。