免疫

 娘が幼い時に焼肉屋さんからもらってきた赤ちゃん犬が、今では老犬になった。散歩しても躓くことが多いらしいし、僕が近寄っても分からずに触って初めて驚いて飛び起きたりする。もう二年くらい、目の周りの毛が抜け落ちてパンダみたいになっていた。そんなに苦痛そうでもないので救われていたが、獣医に見せてもらっていたステロイドの軟膏も飲み薬もほとんど効かなかった。犬好きの妻は結構面倒を見てやって、薬局にある軟膏を手当たり次第に塗ってやっていた。軟膏どころか、免疫を強くする飲み薬を水に溶いて塗ってやったりしていた。一進一退で、進行は辛うじて止まったようだが、治りはしなかった。  ところが、気がついたらこの二週間くらいでほとんど治ってしまった。驚きだ。おそらく、これはあくまでおそらくなのだが、治ったのは娘が帰ってきたからだと思う。その犬、クリは、娘と一緒に大きくなったようなものだ。クリにとっては娘が妹か姉かしらないが、姉妹みたいなものだ。ずっと一緒に育っていたのが、娘が中学校を卒業して家を離れてから、別れて暮らすようになった。9年離れていた計算だ。時々帰ってきてはいたが、すぐ別れることになるくらいの頭は持っている犬だ。今度は一ヶ月以上離れないでいる。クリはもう娘が出て行かないと悟ったのかもしれない。その安心感が、免疫を強くし皮膚病を治したのだと思う。それ以外には考えられないのだ。  それを娘に妻が指摘すると、照れなのか、実は免疫を強くする薬を毎晩のませているといった。1回が500円するので娘もさすがに悪いと思ったのか黙っていたみたいだ。ところがその薬は妻もずっと飲ませていたのだ。だから僕はそのお蔭でないことは分かる。おそらく、クリの精神的な安定がよい結果をもたらしたのだと思う。犬は言葉で教えてはくれないが、さみしかったのではないかと思う。耐えていたのではない た犬のように思えて仕方ない。その分僕に人格破壊が進行しているからプラスマイナス零か。