異常

 去年、人間ドックで検査を受けた人の中で異常がなかったのは11.4%だけだったらしい。10人検査を受けたら9人異常ってことだ。要は、人間ドックで異常が出なければ異常だってことだ。9割の人が不健康なのに、健康でおれるなんて余程度胸が据わっているか、余程現代社会の恩恵を受けていない人だろう。 ざっと、自分の生活を考えても健康でおれるわけがない。歩かない、笑わない、寝ない。早食い、大食い一気飲み。休まない、手を抜かない、許さない。何と戦っているのかいつも戦闘モードだし、何を恐れているのか、いつも怯えているし、何を欲しがっているのか与えることに臆病だし。  こんな精神と、こんな生活環境で健康でおれる訳がない。もしこれで元気だなんてことになったら、健康の価値が下がってしまう。手にする資格がない人間が手にしたらだめなのだ。健康はいつも手の届かないところにあって、発奮して手に入れようとしたり、あきらめたりしながら、そのうち老いて不自由の内に5,6を生き抜いて終わるのだ。  11.4%の中に入って、傲慢に生きていくか、88.6%に入って謙虚に生きていくか。そしてそれはどちらが幸せなのだろう。