まだ見ぬ君に

 まだ見ぬ君に。 泣きたいくらいつらいよね。こんなに真面目に、こんなに頑張っているのに、お腹が痙攣してしまうんだよね。ここ一番に限って、お腹が痛くなるんだよね。手を抜いたり、蔭でこそこそするのが苦手だから、一所懸命頑張ってきたんだよね。でももう緊張状態を保つのには疲れたよね。  君はまさにあの頃の僕と同じなんだよ。僕も教室の中がとてもつらかった。何日も一人で校門を抜け出ていたよ。誰も僕のことなんか気にもしないで、受験勉強で必死だったのに、僕は勝手に級友の視線を感じていた。僕が僕のために作ったおとぎばなしに、気がついたら自分が一番影響されていたのだ。  青春はいたずらだ。あんなに順調に過ごしていた僕を、一気に気弱で臆病にしたのは、青春特有のナルシシズムだ。ちょっとした誤解が、大いなる人生の計画を狂わせる。しかし失った歳月は実は、多いに収穫した歳月でもあったのだ。あの頃の時代がなければ、僕は多くの人の苦しみを実感できない扁平な生き方しか出来なかったろう。  貴女の街では今、熱いアスリート達の戦いが毎夜くり広げられています。暑さに負けたのか多くの競技者が思いもかけない敗退ぶりを演じています。その反対に、意気揚揚として表彰台に上がる選手もいます。僕は地面にひれ伏し、涙を流す選手に感動します。勝者が必ず、善を代表するものではありません。電話口で涙で話す君に、競技場で倒れこんだ選手たちの姿を重ねます。倒れこんだ選手たちには、悲しみの中の絶望ではなく、希望が見えるのです。電話から時々聞こえた貴女の笑い声が、まさにその希望でした。