午前中、フィリピンから働きに来ている人達と会った。なにか困っていることはないかと尋ねたが、尋ねる僕のほうが余程深刻な表情をしているだろう。尋ねるのもはばかられるが、その係りになったので仕方ない。彼らの笑顔や優しげな眼差しにはかなわない。希望が皮膚から玉の汗のように噴出している。僕など汗腺が閉じてしまい絶望を溜めこんでいる。まるで低温動物のようにはいつくばっている。破れた傘から覗いても、希望の光はさしてはこない。  午後は、ベトナムの若者と連絡を取り合った。僕に出来ることは何ですかと尋ねたら、ただ日本語を教えて下さるだけで嬉しいですと言った。僕のことを牛窓では珍しい「優しくて、楽しくて、親切」な人間と言ってくれた。でもそれは全部間違っている。僕は本来、他人に厳しくて、陰鬱で、無関心な人間だ。ただ不平等が嫌いなだけだ。生まれた時代、生まれた国、生まれた家庭により評価が左右されるのが嫌いなだけなのだ。  珍しく大粒の雨が道路をたたいている。もうすっかり日は落ちているが、僕には見える。多くを持ち分け与えない人達が。僕には聞こえる、失うものがなにもなく笑顔さえ人間に備わっていることを忘れた人達が。