違い

 一体この人達はどうしてこんな場所にある店を知っているのだろうと不思議でならない。インターネットで探して来るのだろうが、牛窓が目当てなのか、このお店が目当てなのか尋ねてみたい気がした。土着の僕が知らないのにと言うのは今の時代には通用しないのか。 オリーブ園のイベントの日、出店していた石窯ピザを食べる予定にしていたのだが、いざ食べる時間になると20人近い列が出来ていた。焼き上がりに3分かかりますと言う案内を見つけたので、そこまでして食べる必要はないと早々に諦めた。そこで牛窓の海が同じように見下ろせるイルマール牛窓と言うホテルに行くことにした。10分くらいの移動で着ける。ところがホテルは結婚式の貸し切りになっていてランチを食べることが出来なかった。  かの国の女性にご馳走を食べさせてあげようと思っていたのに、これ以上つれ回すのは気の毒だ。そこでふと思い出したのが、ホテルの近くにしゃれた店があるという娘の言葉だった。娘夫婦は市民病院の院外処方が始まって日曜日にもやってきて仕事をしているが、昼になると牛窓のお店を回ってランチを楽しんでいる。だから僕などとは比べものにならないくらい詳しい。 もしあるならあのあたりと勝手に目星をつけてみんなで歩き始めた。道の両側にはしゃれた家が並び一見高級住宅地に見える。いや別荘地と言った方がいいかもしれない。岬の上に建ち、どの家からも海が見下ろせそうだ。 案の定岬の先端にそのお店があった。確かにしゃれた雰囲気と言っても良いかもしれないが、一番お洒落と思ったのはスタッフ達だった。どう見ても牛窓の人間には見えない。あか抜けていて都会の香りがする。このアンバランスが受けて、多くの人が(実際に沢山のお客さんが入っていた)やってくるのかもしれない。それも地元の人ではなく恐らく全員来訪者だと思った。  晴天ではなかったからはるか四国を見ることは出来なかったが、日常のつまらない茶番を見ることもなかった。嘗てなら意識する必要もなかった澄んだ空気、広がる空、山を覆う緑、数十隻のヨットを抱く静かな海、どれもが愛おしい。その全てを奪われ、それでも尚犯人を追いつめない従順を旨とする東北に暮らす人達の失ったものの大きさに思いを馳せる。  僕はパスタとスパゲッティの違いが分からないが、ひょっとしたら箸を下さいと言ってパンと一緒に食べたから、その日食べたのはスパゲッティだったのかもしれない。