訓練

 最後に来たのは恐らく30代後半の頃だと思うから、もう30年近く登ってきていないことになる。毎日下から見ているが、どうせ何も変わっていない、寧ろ廃れているのではないかと勝手に思っていた。ところが駐車場から急な坂道を上りきった広場は一面手入れされた芝生が広がっていて、嘗て粗い砂の上で仲間とロックコンサートを主催したときとは大違いだった。とても落ち着いた雰囲気に変わり、ベンチでくつろぐ人達や芝生の上を散策する人達のゆっくりとした動きが印象的だった。 小学校の頃は遠足で登ってくるのが定番だったオリーブ園で、ガーデンマーケットなるものが行われているから、地元のイベントを見ない手はないと思って2回目の昨日かの国の女性3人を連れて登ってみた。最近はなるべく公平にかの国の人達に色々なものを楽しんで貰おうと思っているから、その都度メンバーが異なる。昨日はまだ来日して半年くらいの女性ばかりだったから、牛窓そのものもまだ馴染みが無くて、オリーブ園の頂にあるレストハウスからの眺望に「キレイ」や「キモチイイ」を連発していた。母国語ならもっと的確な表現もあるのだろうが、日本語の限られた語彙での精一杯の表現なのだろう。 日本語の語彙なら人並み持っているつもりの僕も、ほとんどその二つの言葉で全てを語れそうだった。瀬戸の穏やかな海の光はキレイだったし、丘に吹く風は「キモチヨカッタ」。その上、これは想像以上だったが、レストハウスやそこに併設されているお土産売り場はそれなりに整っていた。牛窓にこうして一ヶ所にお土産を集めたところがあったんだと再発見だった。訪れている人も多くて、結構混雑していた。  スタッフの数人を良く知っている僕は調子にのって勝手なお願いをした。心地よいゆっくりとした時間の流れを楽しむのも良いが、折角広くて手入れされた芝生の広場があるのだから、イベントをして貰いたい、特に僕の大好きな和太鼓か、最近初めて目の前で見せて貰った大道芸あたりを招いて欲しいと頼んだ。全く僕の趣味だが、そう言ったものがあればもっと長い時間楽しむことが出来るのではないかと思った。 振り返る暇もなく、ただひたすら働いてきたおかげで大きな後悔をすることはなかった。それ以外の道で何か血湧き肉躍る展開があったとも想像しがたい。今になって休日を休日らしく過ごす訓練をしているが、まだまだかの国の若き友人達の協力が必要なようだ。