総動員

 「わしらみたいなコテにはどうにもならん」と言うから、剣道をしているのか、大阪のこてこてのギャグかと思ったが、前後のつじつまがそれでは合わない。分からなかったから「コテって何?」と尋ねると「大手の反対」と教えてくれた。専門の業者が言うから冗談ではなく正式な言葉かと思ったが、ニヤニヤしながら言ったから恐らく単なる洒落、それも口べたな土建屋だから精一杯の洒落なのだろう。  風呂の改装を頼んでいる業者から何の音沙汰もないので、以前から気になっていたことを丁度よい具合に入ってきたその男性に尋ねてみた。僕が牛窓に帰ってからのつき合いで、牛窓では大手の建設会社の専務だった人だが、僕の得てていないところに滅法得てているので、何となく補完関係みたいな人間関係を保っていた。都合のよいことに薬が好きな人だったから足繁く通ってきて色々なことを教えてもらったし、実際に僕の薬局もそこの会社に建ててもらったりしていた。  もう彼は引退しているので、今は娘夫婦と感性が合う業者に色々なことを頼んでいるが、10月に頼んでいる風呂の改装を未だ始めない。気になっていたのは、岡山駅の傍にイオンモールが出来るから、県内の業者はみんなそちらに行っていて、他の仕事には手が回らないと言ううわさ話だ。まさか一軒の建物を建てるだけで県内の業者が総動員なんて考えられない。  そのことを尋ねてみると、噂ではなく真実なのだそうだ。どれだけ大きなものが出来るのか知らないが、県内の業者では手が足らず、県外からも引っ張ってきているらしい。ここからはやや専門的であまり理解できなかったが、大きな仕事になればなるほど手形の期限が長くて、余程しっかりした会社か、逆に現金でもらえる孫請け、ひ孫請けでないと難しいのだそうだ。その男性の小手発言は実は手形が落ちるまで待つことが出来ない会社の規模を自虐的に表現したものなのだ。  それにしても一つの建物を建てるだけで県内の職人総動員とは。そう言えばその会社の息子か何かが政治家で結構な地位を占めていたような。庶民の風呂の改装さえさせてもらえないのだから、庶民のための政治など出来るはずがない。アホノミクスも何様かと思うくらいはしゃいでいるが、所詮どっちに転んでも同じ穴の狢だったのだ。