Aへの手紙

昼寝をしようと思ったら本格的に寝てしまっていたなんてのは、若者の特権ですよ。心穏やかな人の特権かもしれません。貴女は前者でしょうね。心って、本当に厄介な物ですね。僕なんてこの年で毎日この心のやつに苦しめられています。より良い生き方をしたいと毎日思っているのですが、この心のやつに邪魔をされてしまいます。せめて人生の後半くらいはまっとうに生きてみたいと思っているのですが、邪な心がしばしば現れてしまいます。若い時の心の苦しみとは又別の種類のような気もします。ただ、こうして迷いつづけている自分自身も好きなのです。これこそが僕そのもののような気がするのです。迷いが取れて達観してしまったら、もう生きている理由もなくなってしまいそうです。人生とは求めつづけることだと思います。その時々に対象は異なるかもしれませんが。貴女が今苦しんでいるのは、やはり求めている証拠だと思います。おなかを克服しその向こうに何かを求めているのだと思います。3日に岐阜に行きます。医院をしている先輩に会ってきます。大学卒業後に就職していた病院で結核にかかり、隔離された病棟で勉強して医者になった人です。僕の本当に親しい人は2人しかいません。その中の1人です。僕は幼い頃から多くを持ち何もかもうまく行くような人とは親しくなれませんでした。僕らは大学では落ちこぼれでした。でも幸運にも人生では落ちこぼれませんでした。3人とも人がうらやむような就職も出来ませんでした。しかし、薬学が苦手な3人がその後なんとか存在の意義をみつけ社会の片隅で小さな蝋燭の火になれたのは、大学の頃から自分を捨てると言う訓練を3人でしてきたからだと思います。得るために捨てていたのです。当時僕たちは強い大きなものに反発していました。そう言うことが出来る時代でもありました。その欠片が今でも残っているからこうした仕事が出来ているのだと思います。