不意打ち

 うーむ、貴女は優しそうな顔をして、なかなかやりますね。関西からわざわざ新幹線でやってきて、僕の前に不意打ちで現れましたね。お蔭で僕は化粧をする暇もなく素顔で貴女の前に立ちました。頭のてっぺんから、つま先まで、想像とはかなりかけ離れていたのではないですか。  貴女がやってきたとき、貴女に傍に座るように優しく勧めてくれたおばちゃんがいましたね。助かりました。貴女を無駄に待たせるのは気がひけますが、お喋り好きのおばちゃんで時間の経つのも忘れたのではないですか。田舎の薬局の風景を貴女は数時間のうちに味わってもらえましたか。僕の薬局は物売りではないでしょう。貴女がいる時間に訪れた人にほとんど調剤をしましたね。格好よくは応対できないけれど、皆さん治しに来ているのです。僕も治してあげたくて必死なのです。貴女も僕との会話を驚いたかもしれませんね。僕は事実を知りたいのです。事実以外に治すことは出来ません。商売なら貴女を心地よくして帰せばよいのです。多くの薬局がそんな接客技術ばっかり磨いています。僕は苦手です。貴女が治ってくれるなら何でもします。事実ビックリするようなこともしたかもしれませんね。でもどれも後で考えれば大切なことだと判ってもらえると思います。  もうおうちに着いていますね。僕と喋ったことを折りにつけ思い出して、貴女が主観ばっかりで判断していたことを、もう一度洗いなおしてみて下さい。見る方角が変われば、いろいろに見えるものですよ。今度は是非泊りがけできて下さい。牛窓を見ずに帰ったのでしょうから。  真面目で、心優しくて、精一杯毎日を戦っている貴女に、素晴らしい転機となる今日の日でありますように。