水晶玉

 夕方、あるメーカーのセールスがやってきた。薬の会社ではかなりの大手だ。いつもは暇なのだが丁度彼がいた時間、何故か多くの方が来てくれて、結構僕はてんてこ舞いだった。その姿を見ていたのだろう、帰る前になって矢継ぎ早に質問をしてきた。おそらく20年はその仕事を続けてきているだろう彼が、長年解決できなかった疑問を解こうとしたのだろう。  「何故、漢方の匂いをたちこめさせて、いかにも漢方薬局みたいにしないのか」「何故、あらかじめ売るものを決めておいて、セットにしていないのか」「三万円、四万円の単価ではないのか」「何故1ヶ月分売らないの」「水晶の玉みたいなのを飾って気を巡らすなんて説明しないの」「治癒率7割目標でつらくないの」「相談机の前に座るだけで30分5000円何故取らないの」などなど。  彼の疑問は即、彼が今まで目撃していたことに他ならない。おそらく彼自身も、漢方薬局とはその種のものかと、疑問を持ちながらも顧客だから口には出さなかったのだろう。僕に敷居の高さがなかったのか、遠慮しながらも尋ねた。  自称大家も、10人薬を飲ませれば、一人効けばよいそうだ。彼の説明によると、1000人に売れば100人も助けられるからだそうだ。僕なんかそんな確率では僕がつぶれてしまう。しょっちゅう顔を合わせる人が、効かない効かないと言ったら僕自身が耐えられない。患者さんのため、僕自身の為にどうしても維持しなければならない数字なのだ。同じ漢方薬を扱っていても、商売人に徹するか、職人に徹するかで生き方は大きく変わってしまう。しかし、売ることに徹するならなにも漢方薬でなくてよいと思うのだが。もっと商売的に良いものは一杯あると思うのだが。  どの世界にも、カリスマになりたがる人種がいる。ナルシストの行き付く先だ。胡散臭いものを見極める力が現代人には非常に劣っている。僕らはヤシではなく、ヤクザイシなのだ。間に3つの言葉があることを忘れてはいけない。立地にハンディーはあるが、田舎でよかった。職人に徹していても十分食べていけるから。