幸せと不幸の線

 幸せと不幸の線をどこでひくのか分からないけれど、多くの人がその狭間で揺れている。健康な体をもてた幸福があれば、健全な精神を持てた幸せもある。人に助けられた幸運もあれば、人を救った幸せもある。  若い母親で、雑誌の表紙に載るように華奢な人が数人僕の薬局に来る。今風の美人が多いが何せスリムで、折れそうだ。体型から言ってほとんどの人が、冷え性で、胃腸が弱く、頭痛に悩まされ、身体がしんどくて家事がうまくこなせられない。気持ちはあるのだが、バイク並のエンジンでダンプカーを動かそうと言うのだから、最初から無理がある。恐らくほとんどの人が見初められたのだろうが、いざ結婚したら、なかなか大切にはしてもらえない。孤軍奮闘して子供を育てるのだが、評価されにくい仕事だから不満が渦巻く。えてして神経質な傾向があるので、いろいろ不満は湧いてくるが勇気がないから解決しない。  そんな中の一人に今日も漢方薬を作った。今回の処方で、イライラと落ちこみがほとんど治ったらしい。彼女は、僕の母と同じ境遇の人だ。それが分かってからひときわ僕は彼女のことを気遣っている。それこそ他人のようには思えないのだ。母も若い時彼女のように懸命に毎日を生きていたのだろうと思う。僕は彼女に薬を渡す時、本当は涙ぐんでいるのだ。照れくさいから冗談を連発してごまかしているが、本当は幸せになってねと心の中で連呼しているのだ。  幸せと不幸の線は心の中にだけ存在する。それをひけるのは自分自身なのだ。