完治

 過敏性腸症候群は一見、若者に多いトラブルのように思うかもしれないが、意外と中年のも多く、高齢者の中にもいる。幸いなことに、その世代の方は情報を集めることが苦手だから、自分の病名さえ知らない人が多い。だからおなかが弱いとか、ガスがよく出るとか、便秘だとか、昔ながらの呼び方で自分の症状を理解している。これは、僕にとってはかなりのプラスなのだ。分かったような分からないような情報にかく乱されて、泥沼にはまっていく若者とは逆に、中年以降の無知とおおらかさが完治を呼んでくる。  今日来て下さった方の息子さんとは面識はない。40歳をもう過ぎているのだろうか。東京で企業戦士として働いている。恐らく独身なのだろう。病気は母親が相談に来て、漢方薬を東京に送ってあげるから。現代薬を好まない人らしくて、基本的には僕の漢方薬が中心らしい。2ヶ月ほど前、転勤先から東京に戻ってから、食事をするたびに大便があるとお母さんに症状を訴えたらしい。おなかがゆるくて仕事に不都合があるそうだ。僕はストレスだとすぐに分かったので、ヒステリーに使う漢方薬を送った。半月分送ったと思う。今日お母さんが来られて、別のトラブルの漢方薬を要求するので、おなかは治ったのと聞くと、半月分で以前のように朝食後1回の気持ちよいウンチに戻ったらしい。息子さんもストレスが原因かなあと言っていたらしい。僕に言わせればストレス以外に原因は有り得ないと思うのだが。これが若者で自分の症状の情報を収集していたらこんなに早く治るかどうかは疑わしい。治らないと言う前提で僕のところに接触してくる若者もいるくらいだから。どこでそんな知識を得たのか知らないが、最初から行く手がふさがっている道を目指すようなものだ。同じ所を足踏みするしかない。白紙の状態で、フラッとやってきたような人がやはり早く治っていく。  ちなみにその方には障害を持った家族がいて、薬を取りに来られるお母さんが世話をされている。よその町の人でバスを乗り継いで毎回きて下さるが、気丈に生きている。温厚な雰囲気は漂うが、きっと数知れない試練を乗り越えて生きているのだろう。同じような立場で懸命に生きている人がいる。公の補助、地域の援助がどれだけあるのかは知らない。戦闘機一機を買わないだけで救える人の多さよ。ダムを1つ作らないで救える人の多さよ。道をこれ以上延ばさないで救える人の多さよ。無関心がよってたかってあの人達から愛を奪っていく。