幸運と不幸の谷間

 僕の机の上には、まだ読まれていない情報誌が常に積まれている。資料は、製薬会社から毎日絶えることなく届く。田舎で薬局をしているから、情報コンプレックスが強く、送られてくる情報の全てに目を通さなければ気がすまない。牛窓に帰ってきてからの悲しい習性だ。  冷静に読めば、情報のほとんどが、宣伝でしかないことに気がつく。マスメディアで流れているニュースでさえ、より深く観察すれば、意図的に流されているプロパガンダが多い。まして、医療の世界みたいに、治療イコール消費の構図が出来あがっているところでは、見え見えも確たる市民権を得ていて、権威の衣を纏った学者もアナウンス効果に荷担する。  医薬品もサプリメントも、企業にとっては、胃袋に入ってなんぼ。効果がなんぼではなく、売上がなんぼ。株の世界も、この世界も自己責任。他力ではなく、自力が試される時代だ。不自然を見ぬく眼力を鍛えて、身を守らなければ、とんでもない消費者にならされてしまう。  人生を変えるような出会い(人や物)は、そんなにあるものではない。所詮僕らは、人生を変えるくらいな幸運と、人生を変えるくらいの不幸の谷間を、懸命に下っている水の小さな分子でしかないのだから。