カリスマ薬剤師

 丁度去年の今頃、薬局の裏の事務室で、瞬間の激痛とともに崩れ落ちた。思わず出た悲鳴とともに瞬時のうちにその場に倒れた。恐らくぎっくり腰だと思うが、ぎっくり腰常連の僕にも経験がないほど痛みが激しく12時間くらいその場に横たわっていた。ほんの少しの動作が、痛みの為に出来ず腰の大切さを思い知った。  煎じ薬も、天然薬も回復とともに自然と飲むのを忘れていった。よく患者さんから、いつまで薬をのむのとたずねられる。僕は決まって、たいぎになったら自然と飲むのを忘れるよと答えることにしている。一生薬を飲むなんて、寂しすぎる。身体によいものなら続けてもいいが、治療薬は出来れば早く止めたいのが人情だ。僕はその人情を大切にしたい。  僕は朝の8時から夜の8時まで薬局の中に閉じこもっているので、太陽にはまず平日は当らない。日曜日だって、勉強会などで建物の中にいることが多く、滅多に太陽に当らない。そのせいで、恐らく骨格が弱っているのではないかと思っている。ろっ骨を折っていることもあり身体がそもそも曲がっている。心はもっと曲がっているが、調べたら骨粗鬆症くらいなっているかもしれない。太陽に当らないことで唯一よいことがあるとすれば、シミが出来にくいことだろう。人間はシミったれているのに、最近までシミとは縁がなかった。しかしついに1箇所できた。自分でシミの漢方薬を作ってのみ始めることにしたが、さて、これが痛くもかゆくもないトラブルなのでいつまで続けられるか。  漢方薬は別に魔法の薬ではない。現代薬で行き詰まった時によく利用するので、何か特別のことを期待してしまうが、当然ながら、現代薬で難しいのは漢方薬でも難しいのだ。僕が重視しているのは、根拠だ。漢方薬を作る時に根拠がある処方にしなければならない。相談を受ける前から、売る薬を決めているようなことは出来ない。カリスマ気取りで難病を相手にできるほど薬剤師に力はない。あれだけ勉強している医師が、慎重かつ謙虚なのだから。薬局漢方の出番は、日常の不快症状の改善だと思う。