印象

 数時間後に帰国するために牛窓を後にする6人に尋ねてみた。3ヶ月日本にいて、日本に対して印象はどうだったのかと。正直なところを聞いてみたかった。と言うのは3年間の研修生としてやってくる従来の女性達と違って、3ヶ月の人達はいわば会社の命令で来たようなものだ。命令で来て、ひたすら働いて、よい印象もなく帰っていくのは忍びない。僕なりに貢献したつもりだが、果たしてその効果があったのだろうかと点検してみたかったのだ。僕自身の空回りで傷つけていることもあるかもしれないし、参考にしたいような意見も出るかもしれないと思ったのだ。  1人ずつ順番に教えてもらったが、一番多かったのは、綺麗、その次が静か、そしてその次が親切だった。固有の意見もあったがこの3つは全員が挙げた。この印象を聞いていて僕はすぐに思った。これは日本についてではなく、牛窓に関しての印象だと。もっとも僕が連れて行ってあげたところはごく一部でしかないし、紹介した文化もごく一部でしかない。それでもって日本を語れというのは質問に無理がある。おおむね牛窓生活には満足してくれているみたいだが、かの国の首都で暮らす彼女等にとって、まして田舎出身の女性達にとって牛窓は故郷に匹敵する住みやすさだったらしい。帰国したらすぐに騒音の中で暮らし、1日12時間労働に励む。休日も月1くらいしかない。今までは他の世界を知らなかったから当たり前と思っていた生活が、当たり前ではなくなった。このギャップを埋めるのに一苦労しそうだ。  一番若い独身女性はさすがに好奇心が強いのか、一人だけ帰りたくないと言った。しかし親がいるから帰らなければならないとも言った。フェイスブックで少しだけ僕はその女性の彼と話をしたのだが、恋人がいるから帰らなければならないとは言わなかった。少しひかっかったのでそのことを問いただすと「恋人やだんなさんは変えることが出来るけれど、親は変えることが出来ない。だからいつまでも傍で暮らしたい」と怪訝な顔をしている僕に説明してくれた。所変わればこんなに価値観も違うのかと驚いたが、彼女の顔がより純朴に見えた。よい悪いは判断できないが、そうしたことを口に出すときの彼女の顔がより明るくなる。その表情の変化に僕はかの国の人たちの純情を見る。